NPO法人病院前救護と健康管理研究会

設立趣旨

Purpose of
Establishment

 超高齢社会となった我が国において、救急車の出動件数が毎年増加の一途をたどっており、救急隊の現場到着時間や病院に到着し治療が開始されるまでの時間が延伸し、重症患者の救命率に悪影響が出ることが懸念されています。

厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムにおいては、在宅医療・介護を中心として地域内の多施設・多職種の連携が強調されているが、急病時に地域内の施設間を移動する搬送手段の質には触れられていません。そのため、非緊急患者に対する消防救急車利用が増えていますが、具体的な代替搬送手段について検討されていないのが現状です。

解決策の一つとして、消防機関以外に属する救急救命士の活用が有効と考えますが、現在国内に存在する救急救命士約5万6千人のうち、医療行為が実施できる環境にいる消防機関所属の救命士は約3万7千人に留まり、それ以外の多くの救命士の専門性が活かされておらず、社会的損失と言えます。

 このような背景のなか、平成29〜31年度において厚生労働科学研究、消防庁消防防災科学技術推進制度による委託研究の中で、消防救急車の代替搬送手段として、消防機関以外の救急救命士(特に、病院に所属する病院救命士、民間事業所に所属する民間救命士)が搭乗する病院救急車、民間救急車の地域活用する研究を行いました。

また、病院救急車の地域内活用をさらに推進するため、令和2年度厚生労働省補助事業「福岡県病院救急車活用モデル事業」において、病院救命士の搭乗する病院救急車による迎え搬送の実証検証を行い、有用性と安全性が確認されました。

 そこで私たちは、高齢者急病時に、緊急度が低い又は病状が安定した患者を対象に、オンラインメディカルコントロール(MC)体制のもとで、病院救急車に病院救命士、民間救急車に民間救命士が搭乗する、「緊急走行しない緩やかな救急搬送システム」を全国に広く普及させると共に、病院救命士、民間救命士に必要な教育・研修体制の構築、消防機関を退職した救急救命士を含め、救急外来業務、患者搬送業務等において、専門性・技術力が生かせる場を創出することとしました。

また、高齢者が住み慣れた地域で完結できる医療・介護体制作りと共に、消防救急車の適正利用の推進、働き方改革とタスクシフティングにおける医師、看護師の負担軽減を図ることで、地域住民の安心、安全な暮らしに寄与したいと考えています。

NPO法人病院前救護と健康管理研究会
理事長 伊藤 重彦